机上から飛び立つ壮大な仕事。切っても切れない「作ること」と「戻すこと」。

机上から飛び立つ壮大な仕事。切っても切れない「作ること」と「戻すこと」。

column 16

西村 浩

November 28, 2016

初夏が過ぎ、本格的な夏が到来する隙間の6月末、東京「21_21 DESIGN SIGHT」で興味と好奇心をくすぐられる企画展が始まった。それが「土木展」。道路や鉄道などの交通網、そして水道や電気といったライフラインの整備など、日々の生活を支える基盤を築く土木にフィーチャーし、その多様な在り方をより深く知るための展示がなされた。

 

この土木展をコーディネートするディレクターが西村だ。まさに、適任であると思えた。西村の経歴は少々異色である。大学時代に土木工学科に身を置き、そのための勉学に勤しんだが、大学院に進むと、建築の単位も取得。卒業後に建築関係の設計事務所で働くことになるが、その一方で、建築と平行して土木の仕事も請け負っていた。

 

建築と土木、いずれも何かをクリエーションすることに変わりはない。ただ、建築はどちらかというとデザイン性が先行し、土木はデザインそのものよりもその土地にふさわしいものを作るようなイメージがある。西村はそんな相反する双方の感覚を持ち合わせ、必要に応じて自由に使い分け、時に柔軟にミックスさせ、これまで、大小数多の課題と向き合ってきた。

 

そんな西村が5年にわたって設計に携わった土木の仕事を、出身地の佐賀で見ることができる。それが「嘉瀬川ダム」だ。

nishimura03_01l

嘉瀬川の自然と共にそびえる嘉瀬川ダム

 

「ぜひ、ダムを見に行きましょう」

 

西村の明るい声に誘われ、佐賀市から北へと車を飛ばした。嘉瀬川ダムはその名の通り、県北に位置する三瀬村から下流の佐賀平野へと流れる一級河川・嘉瀬川の上流に作られたダムだ。 その大きさは県内最大であり、九州においても有数の規模である。堤高99m、横幅456mで、その巨大な“水瓶”は福岡ヤフオク!ドーム約40杯分にあたる7,100万㎥もの貯水量を誇る。その姿を改めて見て、西村は感嘆の声をあげた。

 

「こんなに大きいんですね。設計者は模型を元に構造を詰めていくので、こうして実際の完成系を見ると、とんでもない大きな仕事だったんだと実感します」

nishimura03_02l

自身の設計した嘉瀬川ダムを前に、仕事の大きさを実感する西村

西村がこの嘉瀬川ダムを作るにあたって念頭においたのが、自然との調和だったのだという。ダムづくりは、まず該当する土地探しに始まり、その後、ダムのアウトラインとなる道路を作る。その後、周辺の森を切り拓き、ダムのベースを築き上げていく。その後、ダムは10年、20年、50年と長い月日をかけて、その土地にどっしりと根を下ろしていき、それはつまり、自然の一部となって周囲に溶け込んでいくことを意味する。

 

このダムは最終的に直線を生かし、構造、形状ともに無駄をそぎ落としたシンプルなデザインに着地した。スッと真っ直ぐに伸びた堤防は潔く、誠実な印象を見る者に与える。

 

「このダムそのものが、最終的に自然に戻っていくことを強く意識しました。例えばスイスでは環境保全は当たり前という考えが根付いています。自然と向き合い、元々ある環境を生かすようにイメージしたんです」

 

実はこの嘉瀬川ダムでは内部の見学も受け付けている。せっかくの機会なので、ダムの中に入らせてもらうことにした。中は年中、約13度。今時分はひんやりと涼しく、冬場はあたたかい。

nishimura03_03l

ダムの内部に初潜入!予約をしたら、どなたでも見学が可能

「たしかモヤモヤと霧が立ち込めて視界が悪かったと記憶していたんだけど」

まず案内してもらった上層階の監査廊は、やや湿度はあるものの、そこまで水蒸気による視界の悪さは感じられなかった。案内役の職員さんの後に続き、放流のシステムなどの説明を受ける。

nishimura03_04l

内部では、一つ一つの設備について説明を受けることができる

このダムは重力式コンクリートが採用されており、99mもの深さとなるダムの水は、その水位を選びつつ放流できる選択取水設備が取り入れてあり、洪水調整とともに運用されているそうだ。 このフロアではそんな選択取水設備について詳しい説明を受けることができる。さらにダムに貯まった水の圧力、水量によって、ダムそのものの“健康状態”も十分に管理されていることも学べた。

 

エレベーターでさらに下のフロアへ。この監査廊は西村の言葉通り、靄(もや)が立ち込め、どこか神秘的な空気感が漂っていた。この監査廊そのものもダムの安全を守る役割を果たしているそう。

nishimura03_05l

天井にはたくさんの水滴。霧が立ち込める通路は、神秘的だった

 

「たわみ計も実物を初めて見れ、感動しました。内部を見ることで、改めて外でダムを見学すると発見が多そうですね」

西村は帰りにダムをもう一度見返して、こう口にした。

 

「これまで数多くのダムが作られてきましたが、作ることが当たり前の時代ではなくなったように思います。ダムを作らずに、ダムの役割を他のものに置き換えることができるかもしれません。例えば、川を利用し、輪中によって洪水の被害を防ぐ手法もあるでしょう。これからダムを作らないという選択があり、選択肢の一つにダムがあるのかもしれませんね」

 

これまで土木の世界にも身を置いてきた西村の目に、未来のダムの形はどのように映っているのだろうか。

nishimura03_06l

text by 山田祐一郎, photographs by 堀越一孝

DATA
嘉瀬川ダム
住所 佐賀県佐賀市富士町畑瀬1-1
電話 0952-51-8321
※ダム内部の見学は要予約、詳しくは嘉瀬川ダム管理支所までお問い合わせください

http://www.qsr.mlit.go.jp/kasegawa/

ページ上部へ