夢の世界であり、現実でもある 今出川での体験が池田のルーツ。

夢の世界であり、現実でもある 今出川での体験が池田のルーツ。

column 20

池田 学

February 22, 2017

川を見たその表情が、パッと晴れやかになった。目尻が下がり、眼差しはやさしい。その川が、彼にとって特別なものであることはすぐに理解できた。

きっと頭の中では当時の光景が蘇っているのだろう。今出川を見つめる時の表情はなんとも柔らかい

池田学は18歳までを佐賀で過ごす。高校時代は毎日、学校との行き来で、記憶に残っている風景は美術室ばかり。とにかく美術一色だった。だからこそ、幼少期の記憶はみずみずしく、色鮮やかだ。 「やっぱり今出川ですね、思い出の場所といえば。幼少期はここに頻繁に通っていました。夏だったら泳いだり、飛び込んだり、涼しくなってくると釣りをしたり、とにかくこの川での出来事は今も鮮明です」。 今出川の、そこに渡された今出川橋のたもとが少年池田の遊び場だった。その川は、想像していたよりもずっと大きな川だ。川幅が10メートルはあるだろうか。それなりに流れも早い。「小学生の頃に遊んでいた」という池田の言葉から、こちらはゆるやかな流れの小川のようなものを想像していたので、少し面食らった。

迷うことなく、案内してくれたいつもの場所。でも、周りは随分と景色が変わったそうだ

「ちょうどそこの辺りですよ」と池田が指を指す。目を向けると、他のところに比べて少し深くなっているようだ。確かにここならば、小学生くらいの背丈でも飛び込んで遊べるだろう。「当時はもっと深く感じたなあ。とてもエキサイティングでした」。池田はニカッと笑う。 溺れそうになって友人の海水パンツを掴んで助かったこともある。川に飛び込むところを学校の先生に見つかって怒られたことも片手では足りない。それでも、楽しさが勝り、またここに来た。極寒の2月には震えながらも釣りを楽しんだ。好きなことには、とにかく貪欲だった。 川は、幼い池田が見ていたものとは少し変わっていた。水流の勢いを削ぐため、たくさんのテトラポットが川に沈められていて、それを見る池田の目は悲しそうだった。「昔は、テトラポットではなくてゴロゴロと丸い岩が転がっていたんです。裸足だと気持ちいいんです。あれでは、痛そうだな」。

今では、たくさんのテトラポットが置かれているこの場所が、昔、子供達の遊び場だったそうだ

想像力———この言葉を聞いて、やはり画家は想像力を働かせて世界を構築していることもあり、その感覚も繊細なのだと感じた。だが、すぐに思い直す。これは想像ではなく、リアルなのだ。自分の身体を動かし、体感してきたからこそ、岩に触れた足の感覚を知っている。想像力は、経験によって生まれるのだ。

一呼吸おいて、池田が再び語り始める。

護岸の下には、想像もしない魚たちの光景が広がっていたと楽しく語ってくれた

「図鑑が大好きだったんですよ。学校の図書室にたくさん置いてありますよね。あれを借りてきて、食い入るように読んでいました。例えば昆虫や魚の図鑑の中には、見たこともない生物がたくさん紹介されています。色もさまざまだし、大きさもまさに十人十色。川に行って、上から見下ろしてみると、いろんな魚たちが泳ぐ様子が見えるんです。“ああ、これはまさに図鑑だ”と思いましたね。図鑑の世界が、目の前の現実とつながる。ざぶんと潜って、水中を覗くと、本当にあの図鑑の中の魚がいるんですから。岩の下に魚たちが隠れていたり、群れを成して泳いでいたりして、これが面白くないわけがないですよ。図鑑という世界に、実際に触れられる場所だったんです、この川は」。 上から眺める、潜ってみる、岩の裏を探ってみる。場所を変えてみる。川というものを、池田はそうやっていろいろな角度から味わった。

「今も、水は綺麗ですね。あ!ほら魚!」と、話の最中にも自然と目は水の中に向けられていた

「水の中の世界は本当に美しいですよ。魚が泳ぐとキラキラと光ってね。その時の経験があるから、今も川を眺めていると、魚が泳いでいたら、すぐにわかるんです。ただ、『あそこに魚がいる!』と教えても、一緒にいる娘たちは一向に見つけられない。目で追えないんですよね、魚がどういうものなのかを知らないから。ぼくにとって、それは普通になっているので、自分が特別だという感覚はありません。でも、他の人には見えないものが見えているということなんでしょうね」。 壮大かつ緻密。相反する世界観をもって描く池田の感性は、夢と現実、そのどちらでもあった。その二つの世界を自由に行き来する才能は、この今出川で養われたのだ。

text by 山田祐一郎, editing & photographs by 堀越一孝

DATA
今出川
住所 佐賀県多久市北多久町大字多久原


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池田学展 The Pen ―凝縮の宇宙―
 会期 2017(平成29)年1月20日(金曜日)~3月20日(月曜日・祝日) ※毎週月曜日は休館 (ただし3月20日は開館)
 開館時間 9:30~18:00
 場所 佐賀県立美術館 2~4号展示室
 Web http://saga-museum.jp/museum/exhibition/limited/2016/12/001467.html

https://www.city.taku.lg.jp/main/5088.html

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