料理の枠を飛び出し、表現し続けるイタリアンシェフ

料理の枠を飛び出し、表現し続けるイタリアンシェフ

column 18

食ごこち

July 28, 2017

3年ほど前、わたしが佐賀市内のチャレンジショップでzine(個人が思い思いに作る小冊子)のお店を始めたばかりの頃、手作りのレシピ集を持って訪ねてきてくださった富永茂樹さん。イタリアンレストラン「イル・ソッリーゾ」のオーナーシェフをつとめながら、時には愛用のカメラで美しい写真を撮り、デザインソフトを一から学び、レシピ集も作る。多彩な顔を持つ富永さんに、改めて佐賀での暮らしについて聞いてみたいと、開店して今年で20年になるレストランを訪ねた。

お店に置かせていただいた手作りレシピ集はあっという間に売り切れ。この一冊は私の宝物

佐賀で生まれ育った富永さんは、高校2年の時には調理の専門学校に行くことをすでに決めていたと言う。「父親がよくカレーや簡単な料理を作っていたことも影響したかもしれません」。高校卒業後、大阪の調理師専門学校で西洋料理を学んだ後、東京のレストラン勤務を経て、28歳で佐賀へ帰郷。現在の場所に店を開いた。「佐賀の空気が好き。いずれ生まれ故郷の佐賀に戻ってくるつもりでした」。長年店を経営する間、新天地を求めなかったわけではないけれど、「今はこのくらいのペースがちょうどいいかな」と富永さん。「佐賀は有明海も唐津の海もあって、食材が豊富ですね。ムツゴロウを赤ワインで煮たこともあります」。地元ならではの珍しい素材を調理することも楽しみの一つのようだ。

佐賀のことや思い出を終始穏やかな優しい笑顔で語ってくれた富永さん

「子どもの頃は、三瀬村や北山ダム(佐賀市街地から30㎞弱の山間地)まで自転車で出かけ、帰りが遅くなって親に心配されたこともあります」と語る富永さんの料理には、そんな好奇心や冒険心が垣間見える。パンや、からすみなど、あらゆる食材を手間ひまかけて自分で一から作ることも多い。店の外から取り出して来てくれたのは、畜産会社に自ら足を運んで作ったという生ハム。約1年塩漬けにしたものを乾燥している段階だそうだ。「1年半から2年くらい熟成させると、もっと美味しくなります」。技術は、本から学ぶこともあるという。生ハムを手に取る富永さんの生き生きとした表情を見ていると、根っからの職人肌なんだなあと思わされる。「つくること?好きですね。つくれるものは自分でつくります」。

仕込み途中の生ハムを快く見せていただいた

最近は畑を借り、野菜づくりにもチャレンジしている。佐賀市南部にある畑に連れて行ってもらうも、その日はあいにくの大雨。畑の持ち主、古賀さんのハウスで雨宿りしながら、「まだ苗を植えたばかりだから、この雨でどうなってしまうか・・・」と心配そうだった。

富永さんが畑をお借りし、アスパラを仕入れている古賀さんのハウスの中で

その後、気温もぐんぐん上がってきた初夏のある日、とてもよく育ったズッキーニなどの写真を富永さんのSNSで確認することができた。ホッとする富永さんの姿が目に浮かぶ。“自分でつくること”への動機を聞いてみると「思えば、どれも料理の延長線上にあるのかもしれません」とのこと。「料理を美しく残したいから、美しい写真を撮りたい。料理を人に伝えたいから、冊子などをつくる」。料理、写真、冊子、畑仕事、と形は違えど、富永さんの中では一つにつながっているのだ。

Il Sorriso店内には富永さんの撮影した写真が飾られていたり、ところどころに富永さんの多彩な面を感じる

佐賀にはいわゆる「○○料理」というような専門店が根づかないと聞いた。食もファミリーレストランやバイキングなど、ここに行けば何でも食べられるという便利さやレジャー感覚が魅力に映るのだろうか。それでも、自分の料理については「何でもありにはしたくない」と富永さん。あくまでも素材を活かすイタリアンをベースに、佐賀の豊かな食材、人や場所を求めて開拓を続けている。
富永さんは、佐賀の魅力を具体的に挙げなくても、料理や写真など、さまざまな手段でそれを表現してくれている。また、同時に佐賀の人は佐賀の魅力を言葉にできなくても肌で感じとっている、とわたしは思った。

愛用のカメラや写真の話も熱く語ってくれた富永さん。開店前のお忙しい中、ありがとうございました!


text by 高橋香歩, photographs by 堀越一孝

Il Sorriso(イル・ソッリーゾ)
所在地 佐賀県佐賀市中央本町2-22 222ビル 3F
TEL 0952-23-7790
営業時間:ランチ11:30〜14:00/ディナー18:00〜22:00(夜は予約制)
定休日:毎週月曜日・火曜日(毎週水曜日は料理教室のため営業はなし)

http://www.ilsorriso-saga.com/

ページ上部へ