4代目蔵元が紡ぎ出す、みんなを幸せにする佐賀の酒

4代目蔵元が紡ぎ出す、みんなを幸せにする佐賀の酒

column 23

食ごこち

September 29, 2017

2002年、故郷の佐賀に戻ってからは、飲むお酒の選択肢に「日本酒」が加わった。10年ほど前、佐賀の女性に地元のお酒のことをもっと知ってほしいと県酒造組合が開いた「プチSAKEスクール」を友人に誘われ受講したのもきっかけだ。その頃から、じわりじわりと佐賀県産のお酒が盛り上がるのを感じている。国内外の品評会で佐賀の日本酒が受賞!などというニュースも耳にするようになった。

そんな「佐賀の酒」に経営者としてだけでなく造り手としても携わっている女性がいると知り、ぜひお話を聞いてみたい!と「古伊万里酒造」4代目蔵元の前田くみ子さんを訪ねた。

素敵な笑顔で迎えてくれたくみ子さん

 

有田と伊万里を結ぶ国道沿い、有田川のそばにある酒蔵。

伊万里の大庄屋をルーツに持つ前田家は、伊万里港のそばで呉服店を営んでいたが、時代の流れで港町の活気に陰りが見えてきた折、曾祖母が武雄の酒屋から嫁いできたことから休蔵の酒蔵を買い取り、造り酒屋として1891年、ほぼ現在の場所に創業したという。

「佐賀で昔から日本酒造りが盛んに行われてきたのは、やはり米どころという土地柄からですね。昔、この辺りには炭鉱があってお酒の需要も高かったと言われています」

1971年、父である3代目蔵元は「清酒 古伊万里」を販売。それまでの前田酒造から「古伊万里酒造」と社名も変更した。従来の日本酒(普通酒)がそう苦労せずに売れていた時代だった。

焼き物「古伊万里」に負けぬよう世界中の方に愛飲して欲しいとの願いを込め社名も変更

 

二人姉妹の長女・くみ子さんは伊万里で育ち、東京の大学で経済学を学んで帰郷。自然な流れで家業を担う一員となった。しかし、ワインや焼酎など人々のお酒の消費は次第に多様化し、景気の低迷も重なって日本酒業界は苦境に立たされていた。

 

「このままではいけない」と一念発起し、それまでの経理だけでなく酒造りにも関わりはじめたくみ子さん。上京し日本酒造りの研修を受けるなど、一通りの知識と技術を学んで再び帰郷。「経営を変えたい」という信念の酒造りは、蔵内でどのように作業を行っているか、どこに設備投資が必要かを把握するところから始まった。

2002年、自社の蔵では造られていなかった純米酒造りを始め、吟醸酒の造りにも力を注いだ。蔵元や杜氏たちと試行錯誤しながら作ったお酒は、3年後に新酒鑑評会で金賞を受賞した。2009年に発売した新しいブランド酒「古伊万里 前(さき)」は、くみ子さんと夫の悟さんが「先代が築いた蔵よりも前に進めるように」という思いを込めて名付けたという。

2009年にオープンしたギャラリーには、様々な賞を受賞したお酒を手に取ることができる

 

2011年、くみ子さんは4代目蔵元になり、専務の悟さんとともに夫婦で経営に携わっている。この日、悟さんはソウル出張だった。海外でもお酒の取り扱いが始まっているのだ。「実は、夫は飛行機が苦手なんです。でも、多くの人に佐賀の酒、古伊万里酒造の日本酒を知ってもらうために、国内外を飛び回ってもらっています」と語るくみ子さん。妻が蔵を守り、夫が国内外へお酒を伝えるという二人三脚に、夫婦の強い絆が垣間見える。

「古伊万里 前」は国内線ファーストクラスでも提供されており、IMARIは国際線情報誌にも掲載される

 

くみ子さんにお話を聞いているとき、ちょうど訪ねてきた伊万里のコーヒー店「LIB COFFEE IMARI」のオーナー・森永さんにもお会いすることができた。「くみ子さんは、この辺の姉御的な存在ですね」と言われるように、イベントなどで協力しあうこともしばしばあるとのこと。

「伊万里で町おこし、カフェをやっている人は外から来ている人もたくさんいます。歴史や土地柄など、伊万里の良さは、地元にいるとなかなか分からないものかも」とくみ子さんは言う。伊万里に若い人たちが集まり、新しい文化や交流が生まれているのも嬉しく思っているようだ。「酒蔵や地元の人たちとの連携、人の和を大事にしながら、自分たちだけでなく周りも豊かにしたい」。くみ子さんの細やかな視点は、商品のみならず、男女ともに働きやすい職場づくり、地域のにぎわい、と全体のレベルアップに反映されている。

くみ子さんは、伊万里に移住されてきた方たちの相談にも喜んで乗っているとのこと

 

今、力を入れているのは、地元のお米をどう活用してお酒を造るかということ。

「日本人より海外の人の方が、『このお酒の原料がどこで作られ、どんな蔵でどんな人が醸しているお酒なのか』ということをより重視していますね」くみ子さんたちが目指す、日本中、世界中の人に飲まれるお酒造り。きっと、それは佐賀の人が「地元を誇れるお酒」につながっていく。

後日、「古伊万里 前 純米吟醸」を飲む機会があった。ほの甘く、それでいてどこか凛とした味わい。それは、くみ子さんの意志が宿っている「佐賀の酒」に感じられた。

 

text by 高橋香歩, editing & photographs by 堀越一孝

 

古伊万里酒造
所在地 佐賀県伊万里市二里町中里甲3288-1
TEL 0955-23-2516

http://www.sake-koimari.jp/

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