ある人にとって何でもないような場所でも、誰かにとって大切な場所なのかも知れない。

ある人にとって何でもないような場所でも、誰かにとって大切な場所なのかも知れない。

column 07

吉岡 徳仁

March 23, 2016

佐賀市内での心に残る場所——その問いに対する吉岡の答えは、意外な場所だった。

 

佐賀県庁から西へ車で約5分。とても小さな神社に辿り着いた。この「本庄神社」こそ、今も吉岡の記憶に残る思い出の地。聞けば、1000年以上の歴史を誇るのだという。その歴史の証とされるのが、この神社に2基ある肥前鳥居で、その鳥居の一つには慶長8年(西暦1603年)の銘があり、佐賀県重要文化財に指定されている。

 

鳥居を抜け、石造りの橋を渡る。
「石橋の下を流れるお堀で釣りを楽しんでいたんです」
吉岡の釣り好きの原点はここにあるようだ。

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門にいる木彫りの猿。補修の継ぎ足し跡が歴史を感じさせる。

ちょうど石橋を渡ったところに門がある。見上げると、猿の木彫が二体。それは今にも動き出しそうな見事な仕事だ。実はこの門と木彫の猿は、いずれも当時名匠とされる多久田の番匠の作なのだそう。数百年を経た木彫の猿は、手足に継ぎ足しの跡があり、それもまた悠久の時の流れを感じさせる。

 

さらに奥へと進むと、そこには実に大きな楠が待っていた。

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吉岡がよく木登りをした楠、樹齢600年。

「この木に登って遊んだんですよ」

 

そう言って吉岡が指差したのが、とりわけ大きく見える大きな楠。この境内には樹齢600年のものを含む五本の楠があり、その中の一つ、大黒さまがたもとにある楠に登って遊んだそうだ。
見上げてみると、幹から枝が大きくせりだし、その姿は実に迫力がある。

 

吉岡のお気に入りの場所は、これからも静かに、どっしりと、力強さを伝えていくのだろう。

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雨の日の後、水面にも映された空が広がる。

実は、この本庄神社の近くに、もう一つ、吉岡ゆかりの場所がある。それが、地蔵川の土手だ。一見すると、「何の変哲もない」という形容詞がぴったりな、そんなごくありふれた土手に見える。

 

「昔、この土手でフナなどの魚を手づかみで捕まえていたもんです」
川の姿こそ変わらないが、数十年という時の中で、河川工事されてずいぶん様子が変わってしまったようだ。

 

しばらくその場に居ると、野鳥のさえずりが聞こえてきた。川に目をやると、雨の日の後だったため、水位が上がっている。広がった水面は大きな鏡のようで、空と雲、太陽をはっきりと映し出す。市内のど真ん中にいるはずなのに、なんだかとても遠くに来たような気がした。ちょうど、この場所は二つの川が合流している場所で、水路の手前にはたっぷりと水がたまっていた。確認できなかったが、確かに魚がいそうな気がする。川上へ少し歩くと、川へと降りる階段を見つけた。昔はこの辺りまで船が着いていたのだろうか。それとも洗濯などに利用されていたのか。

 

「今はここで誰も遊ばないだろうな」
昔は子供たちがここで遊んでいた。それは紛れもない事実で、そんな光景を思い浮かべると、目の前の、とても普通な土手が、なんだか愛おしく見えてくる。ある人にとって何でもないような場所でも、誰かにとって大切な場所なのかも知れない。

 

「また佐賀で釣りがしたいなあ」

 

(edit.山田祐一郎 / 2015.11.03)

本庄神社:佐賀市本庄町大字本庄1156

https://goo.gl/maps/rwdu3jqLyP62

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