通学路は3通り! 『田舎道』『都会道』『田んぼの真ん中』

通学路は3通り! 『田舎道』『都会道』『田んぼの真ん中』

column 11

西村 浩

August 24, 2016

車を降りて真っ先に歩き出し、西村は辺りを見渡した。

 

「懐かしいなあ。ここはね、ぼくの通学路だったんですよ」

 

周囲に高い建物はなく、その代わりに大地に視界いっぱいの田畑が広がる。雲の流れが一段とゆっくり感じさせる高い、高い青空の下で、太陽の光を全身に浴びながら、西村は「うーん、気持ちいいなあ」とつぶやいた。
佐賀市内で生まれ育った西村は、幼少期をこの界隈で過ごしたのだという。現在、実家がこの近くにあるため、度々帰って来ては、この景色を深呼吸するように自身の中に取り入れ、穏やかな時間の流れを取り戻している。
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故郷で自然と穏やかな表情になる西村さん

 

「その当時、三つの道を通っていたんです。行ってみます?」

 

返事の声を聞く前に、西村がスタスタと歩き出した。よく見れば、足元には履きなれたスニーカー。準備は万端だった。

三つの道とは『田舎道』『都会道』『田んぼの真ん中』のことを指す。それらは、西村をはじめ、近所の子供たちが勝手に名付けてそう呼んでいたもので、誰にでも通じる名称ではない。西村の自宅の辺りから小学校へと向かう途中にあり、自由気ままにその日の気分で道を選んでいたという。

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昔と変わらず、今も目の前には大きな空が広がる

 

最初に訪れたのが『田舎道』。右手にレンゲ畑、左手には田植えが終わったばかりの田園が広がっていた。ボコボコっと音が鳴り、見ればポンプが水を汲み上げている。小さなポンプだが、その持ち上げた水が田んぼに広く行き渡っていた。そんな光景に感心していると、西村はおたまじゃくしを見つけた。

 

「裏を見るとおなかにグルグルッて渦巻き模様があるんですよね。ちょっと捕まえてみようかな」

 

田んぼに手を伸ばした。ところがなかなか捕まらない。おたまじゃくしたちは器用に、するりと西村の手をすり抜けていく。
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たくさんのおたまじゃくしを見つけ、無邪気に手を伸ばす

 

「なんで子供の頃は簡単に捕まえられたんだろうな」

 

その瞬間、見事、その手でおたまじゃくしをすくい上げた。西村の言葉通り、裏を見ると、おなかにグルグルッと渦巻き模様がある。おたまじゃくしを水に戻し、また道を先のほうへと歩く。
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少年時代の西村さんを見たような気がした

 

「当時は気が付かなかったけど、この道、かなり細いですよね。ここ、軽トラが普通に通っていたんですよ。よく通れたよなあ」

 

その後、『田舎道』のほうへと移動。『田んぼの真ん中』に比べると道も舗装されていて、幾分か歩きやすい。西村は立ち止まり、「そうそう」と切り出した。

 

「ここは僕の“左右はじめ”の場所なんです。右と左がわからなくなる時、ここの風景を思い出すんですよ。ここを通る時、いつも『右を歩きなさい』って言われてね。だからこの景色を頭に思い浮かべると、どちらが右かはっきりするんです」
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こんな感じ!と明るく教えてくれる西村さん

 

一見すると、どこにでもありそうな風景だ。風景のほうだって、まさかそんな形で記憶に残っているとは思っていないかもしれない。

S字の道を進み、田んぼを抜けると、小学校に着いた。グラウンドを見て、西村は幼少期を回想する。

 

「少年野球に打ち込んでいたんです。だから、この光景を見ると、当時のキツかった練習を思い出しますね。毎日、毎日、練習ばかり。県大会で優勝し、全国大会でも3位になりました。練習の賜物ですね。実は骨を折ってしまったことがあるんですが、それが分からず、練習に参加していましたから。そうそう、ノックの途中でミスをすると、監督が一歩ずつ近づいてくるんです。あれは怖かったなあ」
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懐かしいグラウンドから様々な思い出が湧き出す

 

キツそうなこと、怖そうなこと、いずれも西村は楽しそうに振り返った。そんな鬼コーチのような監督も、練習を離れれば優しい大人の一人。商店を営んでいたこともあり、休憩中にコーラ、ハチミツレモンといった飲み物を差し入れしてくれたという。

その商店は『都会道』の途中にあり、西村は現在の建物を愛おしい目で見ていた。小学校時代はずっと体を動かしていたという西村にとって、毎日が冒険だったのだろう。
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バッターボックスは、いつだって西村さんを少年にする

 

(text by 山田祐一郎 , photographs by 堀越一孝)

DATA
住所 佐賀市本庄町

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