遥かなる道のり~道路清掃のこと~

遥かなる道のり~道路清掃のこと~

column 31

恵良 五月

December 19, 2017

ドイツの児童文学作家ミヒャエル・エンデの『モモ』を読んだことがありますか? 主人公モモの友達に、ベッポという道路掃除のおじいさんがいて、モモにこう言うんです。

「とっても長い道路を受けもつことがよくあるんだ。おっそろしく長くて、これじゃとてもやりきれない、こう思ってしまう。(中略)そこでせかせかと働きだす。どんどんスピードをあげていく。ときどき目をあげて見るんだが、いつ見てものこりの道路はちっともへっていない。(中略)いちどに道路ぜんぶのことを考えてはいかん、わかるかな? つぎの一歩のことだけ、つぎのひと呼吸のことだけ、つぎのひとはきのことだけ考えるんだ。(中略)ひょっと気がついたときには、一歩一歩すすんできた道路がぜんぶ終わっとる。(中略)これがだいじなんだ。」
(岩波書店『モモ』より引用。ミヒャエル・エンデ作、大島かおり訳)

私はベッポのこのセリフが好きで、小学生のとき初めてこの本を読んで以来、何度となく読み返してきました。私は、ベッポの言っているこの長い道路掃除を、人生におけるあらゆる仕事だとか、苦しい時期だとか、そういうものの比喩としてとらえていたんです、移住前は。
それが、まさに道路掃除そのものに際して、ベッポのこのセリフをかみしめることになろうとは、都会にいた頃には想像すらしていませんでした。

山では、集落ごとに年に数回、道路清掃(「公役」と呼ばれる)が行われます。道路清掃といっても、ほうきで掃いたりゴミ拾いをするというより、主に草刈りです。道路沿いの草を男衆が草刈り機で刈っていき、女性はそれをレーキで集めて谷に捨てます。側溝があるときには、そこにたまった草を取り除きます。

刈った草が側溝内に山盛り。これを片付けます

私たちは、自分の住んでいる集落の外にも田んぼを借りているので、そちらの公役にも参加します。今回は、田んぼを借りている地域の道路清掃です。
この道が長い。長いんです。そして、刈った草を集める係が少ない。私は草刈り機が使えないので、片づけ係。2キロ近くあると思われる道路の、わきの斜面や側溝を4、5人で片付けていかなければいけません。道路のスタート地点から私を含む3人が片付けていき、反対のスタート地点から2人が片付けていって、両者が出会ったところで終了。
都会では、地域の道路清掃というと、火ばさみやスーパーの袋を持った人たちがまとまってゴミ拾いをしている姿を連想するのではないでしょうか。山では違います。隣の人が遠い。孤独です。自分の前と後ろにカーブがあって、誰も見えないこともあります。

隣で作業する人が遠い。向こうに点のように見えます

誰も見えないとき

休憩時間は、孤独な作業の合間のほっとするひととき。車でジュースとお菓子が配られます。

10時の休憩

ジュースを飲みながら、チームのお2人とおしゃべりをしていたら、男性は、娘と同級男子のおじいちゃんと判明しました! 俄然、親しみが湧いてしまいましたよ。女性は、これまでに2度、ご一緒に片付け作業をしたことがある、とっても面倒見のよい方。私に声をかけて、いろいろ教えてくださいました。

それにしても、山の人は強い。たくましい。働き者です。
この日は、秋とはいえ熱中症が心配になるほど日差しが強く、とっても気温の高い日でした。けれども、一緒に作業しているお2人は、疲れた様子を見せません。私は農業をやっているというのに、始まってほどなく疲れてきて、「いちどに道路ぜんぶのことを考えてはいかん」という《ベッポ》の言葉を、頭で繰り返しました。
一方、ベテラン2人は、手際よく、黙々と、しかも丁寧に仕事をこなしていきます。私も一生懸命やっているつもりでしたが、私が片付けたところとお2人が片付けたところでは、仕上がりのきれいさが全然違うんです。ああ、写真を撮っておけばよかったですね。いや、やっぱりその違いを見せるのは恥ずかしい。撮っておかなくてよかった。

10年後、この働き者の方々は清掃に参加されているでしょうか…。こう考えると、言いようのない不安に襲われます。
私の住んでいる集落でも、公役に出ているのは、主に私の親世代以上の方々です。その方々も(私たちも)年々歳をとっていき、若い世代が新たに集落に入ってくることはほとんどありません。いつも集落の公役に出てくれているダンナさんによると、移住したばかりの5年前に比べて、作業の終了時間が明らかに遅くなっているといいます。どうしても終わらなくて、次の公役に持ち越すこともあるそうです。
農地についても同じことが言えます。田んぼをやめてしまう方が増えています。このまま、時の流れに身を任せていては、山を守っていくことはできないかもしれません。
だから、私たち惠良農園が、新しい、若い世代のコミュニティになれたらいいな、と願っています。もちろん私たちだけでは守りきれないから、山のそこここで、新しいコミュニティが立ちあがる。そうしてみんなで山を引き継いでいく、そんな未来を夢見ています。

木陰にシートを敷いて、みんなでお弁当

DATA
佐賀市富士町音無地区

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