「たけおパクチー」の可能性に情熱を注いで

「たけおパクチー」の可能性に情熱を注いで

column 41

食ごこち

March 26, 2018

セロリやパセリ、ミントや八角など、独特な香りや味を持つ野菜やハーブは、好き嫌いがはっきり分かれる傾向にある。パクチーもまた然り。たった小指ほどの葉の一片でも料理に入っていればすぐにそれと分かるほどの強烈な風味が特徴だが、一旦その存在感や個性に惹かれてしまえば、魅了される人も多い。

4年前からパクチーの栽培を始め、全国100か所以上の飲食店などに直接野菜を卸している武雄市の江口農園。全く未知の領域だったパクチーという野菜の地域ブランド化を目指し、試行錯誤しながら開拓し続けてきた。どんな思いで農業に取り組んでいるのか、その「種」を拾うべく、江口農園の江口竜左さんにお話を伺った。

レコードやスピーカーなどが置いてある自身がリラックスできるこだわりの作業小屋でお話を聞かせてもらった

2013年、武雄市が地元の新しい特産品としてパクチーに注目し、熱意を持って江口さんほか市内の農家に栽培の協力を相談した頃、喜んで生産に応じる農家はいなかった。江口さんも需要に疑問を持ちつつ、まずは父・達郎さんに相談すると「半年間で結果がでなかったらやめる」という条件つきでGOサインをもらったそうだ。 「実は、最初は好きではありませんでした」。 パクチーのことをそう語る江口さんの生まれた江口農園は、もともと兼業農家の家だった。父は農協職員で指折りの保険マンとして活躍していた経歴もあるが、江口さんが農業を専門に学ぶ学生時代、専業農家に転身。最初はきゅうりや米を主に育てていた。 「パクチーの相談を受けた時、ぼくはちょっと苦手だったけど、何か個性が際立つ感じがしました。武雄市と一緒に“たけおパクチー”という旗を揚げて、武雄のブランド品として全国各地にパクチーを届けることで、最終的に武雄に興味を持ってもらい、移住者も増えていけばいいな」と、柔らかなイメージで、パクチー作りに挑戦することを決めた。

今では農園の看板にもなっている「たけおパクチー」

「大川市のヴィラ・ベルディというショッピングモールで行われた農産物直売のイベントに参加した時、有明海苔で“紫彩(しさい)”という新しい商品を作られている海苔師の古賀哲也さんに出会ったんです。その方は “紫彩くん”などと親しみをこめて呼ばれていて。商品が先を行っていることが率直にすごいと思いました。自分もいつか“江口農園”という名前よりも、そんな強い商品力を持つブランドづくりができたら」 当時は、ちょうどそんな思いを描いていたタイミングでもあった。 「父はチャレンジ精神旺盛ですが、何に対しても答えを出すのが早く、ダメだったらすぐやめよう、という考えがはっきりした人。一方、パクチーの収穫は夏だったら約60日、冬場だったら90日かかるため、半年間だと2〜3作で判断しなくてはいけない」。そんなプレッシャーの中でのパクチー作り。1〜2作目は契約先がなかった。しかし、運命の3作目、しかも残り1か月の時に、東京の飲食店との契約が取れたとの朗報が入ってきた。そこから江口さんのパクチー栽培が本格的に始まった。 「武雄市の担当の方は、まずどんなパクチーを作りたいか? と聞くんですよ。パクチーはパクチーだろう、と思っても、日本の生産者は食べやすいマイルドなパクチーを作られている所もあるそうで。そういう日本の種と、より濃い風味のタイの種で試作して比べてみて、こちらはパクチー好きの人を唸らせるくらいガツンと(風味が)くるパクチーを作ろう、ということになりました」。

話を聞いている最中も、土の状態やパクチーの生育状態などを細かにチェックしている姿に農園への愛を感じる

江口さんの話を聞くうちに、「パクチー」と一言に言っても、奥が深い野菜なのだと知ることができた。 「パクチーは、葉っぱ、茎、根っこの順に味と香りが強まります。根っこも食べられるんですよ」。タイの種を使い、有機栽培でえぐみを少なくし、さらに、県外に送ることも考慮し根っこを深く張らせた丈夫なパクチー。これが江口さんの「こだわり」なのだという。 案内してもらった江口さんのパクチー畑は、母方の祖父がかつて所有し竹や草で荒れていた山間の土地を父・達郎さんが開墾したものだった。 ここで江口農園のスタッフ7名に加え、父が立ち上げた福祉事業所の利用者の方20人と、彼らをサポートするスタッフ8名の計35名がチームとなってパクチーなどの作物を育てている。ハウスの中に一歩足を踏み入れると、ふかふかの土の中から、緑の葉っぱの間から、パクチーのスパイシーな香りがした。 (つづく)

text by 高橋香歩, editing & photographs by 堀越一孝

DATA
株式会社 江口農園
所在地 佐賀県武雄市北方町大字芦原244
TEL 0954-36-3490

https://www.instagram.com/ryusuke_eguchi/

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