何もせず、無になることで、目に見える景色を吸い込む。

何もせず、無になることで、目に見える景色を吸い込む。

column 33

寺内 ユミ

April 17, 2018

『西の浜』の後、寺内さんの案内で唐津城へ立ち寄ることにした。その途中、かつての城下町の面影を残す石垣沿いの小径を歩く。ここは「石垣の道」という名前で親しまれて、その石垣は苔むしていた。「こういう情景が好きですね。情緒的な風景というんでしょうか。私の場合、普段、デザインのアイデア、ヒントになるは情景だったりしますね。デザインをするというと特別なことのように思うかもしれませんが、特別な体験から生まれるというわけでもないんです。ささやかな日常から生まれるものだと考えています」。

「この道が素敵なんです」と、地元ならではのルートを案内してくれた

しばらく歩くとちょうど唐津城の裏手に到着した。そこからぐるりとお城の敷地内を散策。寺内さんにとって、唐津城もまた、西の浜同様、日常的な場所だったのだという。「ぼーっとしているだけなんですよね。西の浜も唐津城も、その途中も、全てひっくるめて、ぼーっとしているだけですよ。何もないのが良いのかな。いろいろあると、考えてしまいますしね」。
景色を見ながら、ただし目を開いていながらも、その心は瞑想のような状態にする。そうやって、寺内さんは、この景色を自身の中に取り込んでいるのだろう。

自然の中にヒントがある。寺内さんが唐津に帰りたくなるのは、必然なのかもしれない

景色といえば、寺内さんの手掛けたブラッシュブランド「SHAQUDA(シャクダ)」にも、その感覚が息づいている。「SHAQUDA」のコンセプトは「けしきをみたす」なのだ。
「モノそのものだけではなく、それがあることによって、周りの空気、自分の心までも満たしてくれるモノづくりを創り出したプロダクトです」。
デザインというと何か特別な特徴をモノに付加し、それを強調させるような見せ方が施されているように思うが、SHAQUDAの場合、違うようだ。

エシカル メイクアップブラッシュ‘UBU’(http://www.t-designoffice.co.jp/work/ubu/

「使ってみて、触ってみて良い。それに加えて、置いてある佇まいも良い。1本だと分かりにくいですが、展開する17本全てを並べてみると、ブラシの上部がぴったりと整然に並ぶんです」。確かにその言葉通り、スッと真っ直ぐに揃っている様子は気持ちが良いものだ。ブラシを使うシチュエーションを考えると、使用しているその時間よりも、こうして置かれている時間のほうがずっと長い。インテリアの一部というと極端かもしれないが、そういう性質を備えているように思えた。
素材においても経年変化が楽しめるよう、ウォルナットを使用。まさに自分だけのブラシとなるよう、配慮してある。
そして、ブラシを使う瞬間、その本人が景色の一部になるとすれば、その所作も美しいものであってほしいと、寺内さんは願う。そして、デザインの力によってそれを表現した。要諦を一言で説明するならば「長さ」である。例えばバレエダンサーの所作が優雅に見えるのは、シュッと伸びた手足が、大きく、自由自在に流れるように動くからだとすると、ブラシにおいても柄の部分がほどよく長ければ、所作が優美に映る。
この所作についての考えは「SHAQUDA」で展開するブラッシング・スキン・ケアシリーズ「SUVE」にも貫かれ、例えば、ボディブラシはまるで抹茶を点てるように泡立てるような動きを誘うデザインが特徴だ。日本的な所作は加えるが、単純な「和風」というわけではない。その目線はあくまでグローバルだ。

美しい松林の中、まつぼっくりをおもむろに拾い上げたり、ゆったりとしながらも常に感性のアンテナが反応していた

唐津で育まれた寺内さんの感性。そんな寺内さんが手掛けてきたモノから伝わってくる情緒は、唐津の景色へと繋がっている。

 

text by 山田祐一郎, editing & photographs by 堀越一孝

DATA
唐津城
住所 佐賀県唐津市東城内8-1
電話 0955-72-5697
営業 9:00〜17:00(入館は16:40まで) ※季節によって開館時間の変更あり
休み 12月29日~31日
天守閣観覧料 一般(15歳以上)1人500円、小・中学生1人250円

http://karatsu-bunka.or.jp/shiro.html

ページ上部へ