生まれた頃から縁のある 氏神様に会いに行く。

生まれた頃から縁のある 氏神様に会いに行く。

column 34

寺内 ユミ

May 24, 2018

「唐津城」を後にし、西へ移動した。寺内さんにとって大切な場所がもう一つあるのだという。それがこの「唐津神社」。寺内さんは「氏神様なんです。生まれた頃からお世話になっているので、本当にずっと訪れている神社です。幼い頃はとても体が弱かったので、具合が悪くなったりすると、すぐにお参りに来て、治るとまたお礼をしに参拝していました」と、長年の付き合いであることを教えてくれた。

石造りの白い鳥居が印象的。場所も存在も唐津の中心

城内という住所からも分かるように、この神社は唐津の中心部にある。入口にそびえたつ真っ白な鳥居をくぐり、その奥へと進む。神社が建てられたのは奈良時代とされる。毎年11月2~4日に開催される唐津の代名詞とも言うべき一大行事「唐津くんち」は、この「唐津神社」の秋季例大祭だ。その3日間、唐津の街を14台の曳山が練り歩く。 「幼少の頃からおくんちは大好きでした。一つ残念なのが、私の実家がある町には曳山がなかったんです。曳山があるのは『〜町』というように、住所に町が付くところで、お隣の町にはあったのを、とても羨ましく思っていました」。そう言って寺内さんはちょっと悔しそうな表情を見せた。唐津くんちの魅力を、彼女は「唐津は普段、とても静かな町なんです。ただ、おくんちの時は正反対で町中が熱くなる。そのギャップが混在しているのが良いんですよね」と表現した。神社の西側を指差し、「すぐ近くに『曳山展示場』があって、そこならいつでも曳山を見物できるんです。ただそこに在るだけなのに圧倒的な存在感があって、純粋にかっこいい。それが動くとなると大迫力!」と声を弾ませる。

地元に誇れる祭りがあることがどんなに素晴らしいことか、寺内さんの表情を見て改めて実感した

大好きだった唐津くんちも東京で過ごすようになってからは疎遠になっていたが、唐津に頻繁に帰るようになってからは、再び、おくんちに足を運ぶようになったのだという。「本当に久しぶりに観ましたね。実家が元々料理屋をしていまして、唐津くんちの時期は繁忙期なんです。だから、幼い頃からその時期は唐津くんちが観られる楽しみと、店の手伝いをさせられる大変さがセットになっていました。その記憶が少しばかりのトラウマになって、おくんちの時期に帰るのは、ちょっとやめておこうかな、と」と寺内さんは苦笑い。ただ、今、こうして歳を重ね、故郷に誇れるお祭り、そして文化があることはありがたいことだと感じているそう。 「こうやって、長い歴史の中で脈々と受け継がれている伝統が地元にあり、こうして思い出があって振り返ることができるのは嬉しいことですよね」。

境内にはいくつかのお宮があり、体の各部分を守護してくれる神様など、様々な神様が祀られている

境内で参拝を終え、鳥居のほうに戻りつつ、辺りを散策した。「この神社には本当に守ってもらっているという気持ちがありますね」と寺内さんがぽつりと呟いた。帰郷した際には、必ず毎回お参りに訪れ、おみくじを引き、神様の前で手を合わせ、がんばっていますと報告する。そして、帰る際にも一度、挨拶のために立ち寄り、また東京へと戻る。そんなルーティンの中で、寺内さんは心を整えているのかもしれない。この日、おみくじを引いてみたところ、結果は大吉だった。「おみくじは大吉とかよりも書かれている中身が大切なんですよね。まあ、すぐに忘れちゃうんですが・・・」と笑顔を見せた。

おみくじの言葉にもゆっくりと耳を傾ける。こういう時間の価値を改めて感じることができる場所、それが唐津だった

「佐賀に生まれて良かったなと思うのは、何もしなくて良い時間があること。それはとても贅沢なことなんだと、大人になってから分かりました。昔はあんなに離れたかったのに、こうして大人になると、帰ってきたくなる場所だったなんて。当時は全く分からなかったなあ」。 スピード感、キャリア、そういうものに若い時は憧れがあった。ただ、そういうものを一通り経験し終えた今、落ち着く場所がほしくなる。気が付けば、それが故郷、唐津だった。

大好きな場所で、寺内さんはこれからも挑戦を続けていく

神社から帰ろうとすると、せっかくだったら、商店街を散策してみてほしいと、寺内さんから勧められた。商店街は寺内さんにとって幼少期は遊び場、思春期は通学路であり、“庭”ともいうべき慣れ親しんだ場所だ。最初に訪れた「豆腐料理 かわしま」も商店街の中にある。 懐かしいおやつがあるのだと、「ふじ川蒲鉾本店」に立ち寄った。店に近づくと何ともいえない良い香りが流れてくる。「ここの魚ロッケを食べてほしいんですよ」。その「魚ロッケ」とはコロッケのような見た目だが、ジャガイモではなく、魚のすり身を使い、カレーの風味をつけて販売している。「小さい頃によく食べていたんですよね。唐津にしかない食べ物だって知らなくって。東京で当たり前のように魚ロッケを話題に出して、誰も知らないという事実に衝撃を受けました。カレー味が郷愁を誘うんですよね。昔は駄菓子屋でも売っていたんですよ。昔はそのままパクッと頬張っていましたが、今ならフライパンで少し温めて、マヨネーズと七味をちょんちょんと付けながら楽しみます。お酒のおつまみにぴったりです」。

商店街を歩きながら、寺内さんはこれからのことを話してくれた。「昔はこの辺りにもリアカーが出ていて、野菜などを販売していて、とても活気があり、何より、情緒がありました。そんな思い出の詰まった町なので、この町の魅力がずっと続いてほしいなと願っています。いつか唐津の景観など、私ができることで力になれたらいいな」。 取材が終わると、寺内さんは来た時と同じように、歩いて実家のほうへと帰っていった。寺内さんが思い描く唐津の未来には、どんな街並みが広がっているのだろうか。

 

text by 山田祐一郎, editing & photographs by 堀越一孝

DATA
唐津神社
住所 佐賀県唐津市城内3-13
電話 0955-72-2264

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