「ローカルだからこそ」の意味と価値

「ローカルだからこそ」の意味と価値

column 45

村岡 昌一

May 07, 2018

3月初旬の日曜日、名水と蛍の里として知られる小城市小城町の天山酒造を訪ねた。『人・米・酒プロジェクト』の最終回、「瓶詰め・ラベル貼り」に参加するためだ。

参加者を迎える準備が進む。

参加者を迎える準備が進む

受付で空の四合瓶2本を受け取り、会場となっている蔵の中へ入っていく。蔵には紅白幕が飾られ、清々しく厳かな空気を感じ、背筋がピンとなる。

天山酒造の塚本さん。このプロジェクトについて話を伺った。

天山酒造の塚本さん。このプロジェクトについて話を伺った

『人・米・酒プロジェクト』は、平成29年度で15回目を迎えた。天山酒造の塚本博之さんは言う。「このプロジェクトは、ものづくりのプロセスを知っていただくことと、地産地消や食の安全についても考えていただくきっかけにしようと始まりました」。参加者は、6月の田植え、10月の稲刈り、2月の酒の仕込み、3月の瓶詰め・ラベル貼りを通じて、酒づくりへの理解を深めていく。

これから、オリジナルのラベルを作り、酒を瓶詰めし、世界でひとつだけの酒を手にするのだ。参加者はうれしそうに、また、どこか晴れ晴れとした表情で作業開始を待っていた。

同じ原材料でも、発酵の具合が毎年異なるため、仕上がった酒はパイナップルのような香りの年もあれば、りんごやバナナの年もあるとのこと。酒づくりの難しさと奥深さ、面白さの一端を感じる。

同じ原材料でも、発酵の具合が毎年異なるため、仕上がった酒はパイナップルのような香りの年もあれば、りんごやバナナの年もあるとのこと。酒づくりの難しさと奥深さ、面白さの一端を感じる

定刻を迎えた。塚本さんが酒の仕上がり具合を説明する。「今年のお酒はパイナップルのような香りがします。ゆっくりと発酵が進み、華やかで香り高いお酒です。試飲をしたところ申し分のない仕上がりです」。

オリジナルのラベル作成のため、カラフルなサインペンや和紙が用意されていた。

オリジナルのラベル作成のため、カラフルなサインペンや和紙が用意されていた

使い込まれた作業台には、サインペンやスタンプなどが置かれている。参加者は用意された和紙に、家族や飼い猫の名前、決意の言葉などを書き込み、できあがったラベルを瓶に貼り、酒を詰めていく。

生温かな水田に素足で入って、細くて頼りない苗を手で植えた6月

10月。収穫の時期を迎えた。29年度は天候のため残念ながら稲刈りは中止となった

2月の仕込み体験の様子

酒の原材料は、昨年6月に参加者で田植えをした酒米を含め、全て佐賀県産とのこと。昨年の佐賀の夏の記憶を一粒一粒に蓄えた酒米が、小城の清らかな水と出会い、発酵という不思議な力を得て酒になった。一滴一滴に佐賀の天や大地の恵みと、人々の卓越した技が凝縮されている。

細かな水泡をキラキラさせながら、仕上がった酒が注がれていく

瓶に注がれていく酒を見ながら思う。日本酒には、地域の恵みや誇りを伝える役割もきっとあるのだ。だから、「佐賀県産の原材料だけでつくること」には大切な意味と価値がある。

 

もうひとつ思うのが、つくり手を知ることによる変化だ。塚本さんをはじめ、酒づくりに関わる方々を目にしたことで、酒に「つくっていただいたもの」という意味が加わり、価値が高まる。

“世界でひとつだけの酒”を手にして、みんな笑顔だ

「家族の誕生日に」、「飼い猫と過ごしながら」。参加者は皆、この特別な酒を楽しむ場面を思い描いていた。

私は家族の節目を祝い、この酒を開けた。塚本さんが言ったとおり、爽やかで甘い果実の香りがする。口に含むと、ふわっとした華やぎのある甘さが広がり、少し感じる酸味が味の輪郭を引き締める。「美味しい」。吐息のような感嘆の言葉が思わず漏れる。

 

『人・米・酒プロジェクト』に参加した一年を振り返りながら、改めて思う。厳選された原材料を使い丹念に仕上げられた日本酒は、地域を表現し伝える“作品”なのだ、と。

DATA
『人・米・酒プロジェクト』

参加料
おとな 一人 4,000円(税込み)
子ども(未成年) 無料
最後の瓶詰め時に新酒720ml 2本が渡されます。

お問い合わせ・お申し込み
天山酒造株式会社
住所 佐賀県小城市小城町岩蔵1520
電話 0952-73-3141
メール info@tenzan.co.jp

http://www.tenzan.co.jp/main/25.html

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