嬉野市 老舗温泉旅館「大村屋」15代目社長の北川健太さん、聞かせて!(前編)

嬉野市 老舗温泉旅館「大村屋」15代目社長の北川健太さん、聞かせて!(前編)

column 48

堀越 一孝

June 27, 2018

『さがごこち編集術を、聞かせて!』記念すべき一人目は、嬉野市にある老舗温泉旅館「大村屋」社長の北川健太さんに聞かせていただきました!

– 堀越
北川さんとは、ぼくが2014年に嬉野市の隣町、長崎県東彼杵町に引っ越してきた時から何度もお会いしていますけど、こうやってゆっくりお話しするのは初めてかもしれませんね。今日は、宜しくお願いします!
– 北川さん
確かにそうですよね。こちらこそ、お願いします。
– 堀越
相変わらず、スーツでシャキッとしていますねぇ。
– 北川さん
いやいや、仕事中ですから(笑)
– 堀越
このロビー空間は、いつ来ても居心地がいい。そして、いちいち館内に流れている音が良いですよね。

北川さんといったらBEATLES。嬉野ケーブルテレビ番組『Let’ Beatles!』のパーソナリティも

– 北川さん
元々音楽が好きなので。昔は、バンドや音楽雑誌の編集など音楽業界に進もうと思っていました。宿泊業に初めて触れたのも、バンドをやるための仕事として条件の良かった東京のホテルでベルボーイのアルバイトをした時です。
– 堀越
それまでは、実家の旅館業を継ごうとかは思っていなかった?
– 北川さん
はい。でも、実家は1830年から続く老舗温泉旅館。ホテルで働いている時に、同じ宿泊業なのに、ホテルと旅館はなんでこんなに違うのか?と考えることはありました。
– 堀越
そんなに違いましたか?
– 北川さん
ホテルは、コーヒーだけでも立ち寄れるし、宴会やパーティーなど日常的に人が行き交う駅のような場ですよね?でも、旅館はそんなことはない。
– 堀越
確かにホテルで打ち合わせはしても、旅館ではしたことないなぁ。
– 北川さん
ぼくが25歳で嬉野に帰って来た時、1年に2軒ずつ温泉旅館が潰れていて、街も人が全然歩いていなかった。街の風景がどんどん変わっていくことに危機感を感じたんです。この街、やばいんじゃない?って。
– 堀越
今年で帰って来て何年目ですか?
– 北川さん
9年目です。この街は、1300年続いている温泉街として歴史も実力もある。でも、これだけ人が来ていない。自分の旅館もかなりやばかったのですが、自分の旅館だけじゃなくて、街のことも含めてなんとかしなければと切実に思ったんです。
– 堀越
ぼくが見ている最近の嬉野は、魅力的なコンテンツが活き活きと情報発信されていて、そんなどん底な感じはしません。
– 北川さん
その情報発信が、最初に向き合ったことですね。帰って来てすぐに社長になったので、街の組織にも必然的に参加しました。でもそこには、これからを考えていくはずの20代、30代の姿はなく、ほとんどが60代以上。まずは、その組合とか街の組織に参加していない人に出会えて、集まれる場と時間を作りたいと思い、『チームUreshino』という勉強会を始めました。
– 堀越
それは、どんな組織?
– 北川さん
組織にしたくなくて、開催日時だけ発信して集まった人が『チームUreshino』。しばりを極力なくしたかったんです。そして、最初にやったのがインターネットの勉強会。
大きな旅館はネットの担当者がいるけど、うちも含めて中小規模の旅館は、自分たちでなんでもしなきゃいけません。それなのに、ほとんどの人がインターネットを使えない状況でした。それは、今の旅館にとったら致命傷です。だから、自分たちでネットエージェントに掲載する予約情報の編集方法や、自社ホームページを作って発信する方法からはじめました。
– 堀越
しばりを極力なくして、みんなが参加できる仕組み。さらっと言ってますが、かなり難しいことをはじめからやったんですね。

年下とは思えない落ち着いた雰囲気を持つ北川さん。いつ会ってもビシッとしてる

– 北川さん
その『チームUreshino』がきっかけで生まれたイベントが『スリッパ温泉卓球大会』です。
– 堀越
あの有名な!
– 北川さん
使ってない卓球台が倉庫に眠っていると聞いて、旅館てなんか卓球のイメージあるじゃないですか?でも、普通にやっても面白くないからどこの旅館にもあるスリッパでやってみよう!って、毎月最終日曜日に公衆浴場「シーボルトの湯」前の倉庫ではじめました。運営も倉庫のシャッターを開けたらすぐにできるように、とにかく気軽にできることを大切に。2010年から始まって、今年で8年目ですね。今では、最終日曜日はみんな自然と予定を入れなくなりましたよ。
– 堀越
最終日曜日に開催というのはなんで?
– 北川さん
集客目的というより、自分たちも参加できるようにしたかったから、程よい客入りの日にしました。

旅館内には、大村屋だけではなく街の歴史を知ってもらうような仕掛けも

– 堀越
自分たちも参加したかったからってところがいい!イベントの企画としては、この『スリッパ温泉卓球大会』が最初ですか?
– 北川さん
街の大人の人たちに、なんか面白いことやってると認知してもらったのは、『スリッパ温泉卓球大会』が最初かもしれませんね。『スリッパ温泉卓球大会』をやってから、「組合としてなんか協力するよ」と言葉をもらえるようになりましたから。
– 堀越
自分たちも参加できる面白い現場が目の前にできて、伝わったんでしょうね。
– 北川さん
そうですね。やはり、実際に見てもらわないことには認めてもらえません。
うちでは、スリッパ卓球よりも前から『一日一善プラン』というのを閑散期対策にやっていました。
– 堀越
一日一善?
– 北川さん
街の地図と一緒に、軍手とゴミ袋、トングを渡して、ゴミ拾いをしながら街を散策してくれたら、ワンドリンクサービスというプランです。
– 堀越
え?泊まりに来たお客さんが、ゴミ拾いするの?
– 北川さん
はい。季節によって街の見所とかを案内して、街を歩いて楽しんでもらうための仕掛けとして。
– 堀越
それは面白いですねー!
– 北川さん
少し前まで、旅館やホテルは大手の旅行エージェントに入っていれば、お客さんが来てくれた時代が長く続いていたと思うんです。だから、自分たちで部屋を売るとか企画する必要はあまりなかったんじゃないかな?と、思います。あくまで、ぼくの印象ですけど。
でも、『一日一善プラン』をやってからですかね。旅館のプランで遊ぼうって思ったのは。
– 堀越
旅館のプランで遊ぶ!いい言葉だなぁ…。このロビーに飾ってある家族写真は、『いとう写真館』の写真ですよね?この『いとう写真館』は、どこで知ったの?
– 北川さん
長崎県波佐見町にあるmonne legui mooks(以降、ムック)です。こっちに戻って来た当時は、毎週のように行っていました。嬉野では出会えない情報や人、イベントなどがムックには集まっていましたから。
– 堀越
そうだったんだ。ぼくも長崎に引っ越した時、まず最初に行きました。

ロビーには、毎年開催している旅館で記念写真を撮影する『いとう写真館』で撮影された写真や本、たくさんのレコードが並んでいる

– 北川さん
あのような場が近くにあったのは、大きかったです。ムックでやるイベントに参加したりするうちに、いろいろと企画して場を使うことは楽しそうだなぁーと思って、そういえば旅館にも場があるじゃん!と。
– 堀越
そこで、旅館を場として捉えたんですね。
– 北川さん
あと、宿泊プランとかは、自社ホームページを持てるようになったことが大きいです。それまでは、旅行会社に年に一回プランを提示して、それから一年間は変えられませんでしたから。
– 堀越
自分たちで情報発信ができるようになったってことですね。
– 北川さん
自分で扱えなかったメディアを手に入れたのは大きいです。
– 堀越
北川さんが旅行プランやイベントを企画する時、どんなターゲットをイメージしてるの?
– 北川さん
旅館としてのターゲットは、二世代なんです。ぼくら世代の人が親を連れてきたいと思える温泉旅館。
– 堀越
二世代?なんでまた。
– 北川さん
元々、多かったんです。週末なんかは、三分の一よりもう少し多いですかね。
– 堀越
え?そんなにみんな親孝行してるの??やばいな・・・自分。
– 北川さん
そういう時、予約するのってぼくら世代なので、ぼくら世代に刺さるような音楽とか本を揃えて、湯上がりを楽しむ宿というイメージを持ってもらえたらと思ってます。

一年に一室のペースで古くなったお部屋をリノベーションしている。どこの部屋にも必ずオーディオが

– 堀越
そのイメージをつくるために、まずどこに着手したの?
– 北川さん
まずは、このロビーですね。もちろんオーディオもなかったですし、家具も全然違うシンプルな空間でした。
– 堀越
このスピーカーもかっこいいなぁ。
– 北川さん
このスピーカーは、父の倉庫に眠っていたものをリペアしたものです。オーディオは、プロの方にセッティングしてもらって、元々あったものの力を最大限に引き出せるよう組み合わせています。
– 堀越
こだわりがすごい(笑)
– 北川さん
夜は、宿泊いただいているお父さんがここで一人お酒飲んで、レコードをリクエストしてくれたりします。
– 堀越
いやぁー、それ最高でしょうね!昨晩泊まらせてもらって、今朝も温泉入ったのだけれど、音楽の雰囲気が時間によって全然違ってました。あれ、全部北川さんが選曲しているの?
– 北川さん
はい。フロントに夜のうちに、かける曲のメモを置いたり、ぼくが選曲しています。
– 堀越
完全にDJですね。
– 北川さん
自分が楽しいので、全然苦ではないです。やっぱり自分が楽しまなくちゃ。
– 堀越
自分の世界観を表現できる場があるって、羨ましいなぁ。

一人でゆっくりと楽しみたい方向けの真空管アンプをつかったオーディオ空間も

– 北川さん
やはり、仕事というか生き方なので、ぼくは楽しくワクワクしながら生きていきたいと思っています。もちろん大変な面もあるけど、仕事も楽しさを見つけられたら勝ちかな?と思うので。
– 堀越
生き方だからこそ、「こうしたい!」を素直に出して、自分も居心地の良い場にしているんだ。
– 北川さん
そこが、旅館とホテルの違いだと思いますね。
– 堀越
どういうこと?
– 北川さん
旅館て昔ながらの家族経営とかが多いじゃないですか。それって、言い換えればうちの場合、北川家に泊まりに来ているわけですよね?ある意味。
– 堀越
確かに!
– 北川さん
だから、家にお客さまをお招きしているということなので、その主の個性が出ないとおかしいと思うんです。
– 堀越
うわぁ、バシッと来た!
– 北川さん
もちろん、一流ホテルとかの方がサービスとかはすごいかもしれないけど、誰がやっているか見えない。そこが、旅館は違うと思います。誰がやっているのか分かって泊まれるというのが、旅館の強み。中には、そういうのを嫌がる方ももちろいますけど、それは使い方の違いです。

後編へ続く

 

text & editing & photographs by 堀越一孝,illustrations by ほりこしみき

嬉野温泉 旅館 大村屋
〒843-0301
佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿乙848
TEL:0954-43-1234

http://www.oomuraya.co.jp/

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