嬉野市 老舗温泉旅館「大村屋」15代目社長の北川健太さんに聞く!(後編)

嬉野市 老舗温泉旅館「大村屋」15代目社長の北川健太さんに聞く!(後編)

column 53

堀越 一孝

August 13, 2018

前編では、北川さんが嬉野市にある老舗 温泉旅館「大村屋」に戻ってきた当時に感じたまちの状況。時代の変化によって、旅行会社に頼るだけではない旅館としての企画開発などについてお聞きしました。
旅館という場を、「遊べる」空間と捉え、様々な企画を北川さんは実施していきます。後編は、その企画に関する具体的なお話をお聞きします!
 
 
– 北川さん
ホテルと旅館の違いをお話ししましたが、旅館を宿泊客だけのものではなく、みんなに開くというのは、ホテルでアルバイトをしていた経験から、絶対にやろうと思っていたことなんです。
– 堀越
今まで、旅館でいろいろな企画を開催していると思うのだけど、どんな企画をやるようにしていますか?
– 北川さん
とりあえず、自分が「楽しそう」「やりたい」と思ったことは、まずやっちゃいます。
– 堀越
例えば?
– 北川さん
街の鍼灸師さんと話している時、「最近ホテルの中に簡易マッサージブースなどが出てきて仕事が減っている」と聞いたんです。鍼灸師さんは、国家資格を持ってる人。そういう技術の高い人たちの仕事や文化がなくなるのは、もったいない。若い人たちが知らないからって、簡易的なマッサージに行くんじゃなくて、本格的な鍼灸師の技を気軽に体感してもらえたら楽しそう!と、『モミフェス』を企画しました。
– 堀越
モミフェス! ネーミングだけで、行きたい(笑)

今年開催されたモミフェスのフライヤー

– 北川さん
これ、ぼくの中で一番ゆるく始めた企画なんです。あまり告知もしなかったし、最初そんなに人来ないだろうと思ってた。でも、当日は200人以上来ちゃいました。こっちの鍼灸師さんは10人くらいしかいないのに(笑)。だから、鍼灸師さんたちは5,6時間揉みっぱなし。
– 堀越
5,6時間?そりゃ、大変だ!
– 北川さん
終わった後、申し訳ないことをした・・・と思って挨拶に行ったら、めっちゃいい顔してるんですよ。「いやぁー、久々にこんなに仕事した!こんなに求められてることを知れて嬉しかった」って。それで、「来年もやりたい!」と向こうから言ってきてくれた。
– 堀越
めっちゃいい話じゃないですか。
– 北川さん
2018年で6回目になりました。今では、鍼灸師さんだけでは足りなくて、リラクゼーション部門もつくっています。
– 堀越
リラクゼーション?鍼灸師さんから「なんで?」って言われたりしなかったですか?
– 北川さん
最初はありました。「国家資格もってない人とはやりたくない!」って。でも、しっかりブースを分けたら大丈夫。
– 堀越
鍼灸師さん目的の人がリラクゼーション部門に立ち寄ったり、リラクゼーションに興味を持って来た人が鍼灸師さんの技を体感したり、入口を広げたんですね。
– 北川さん
そうなんです。イベントでは、今までのライバルを並べることで逆に相乗効果を生んだり、意図してないことが起こったりするから面白い。だから、たくさん失敗もしたけれど、思いつきでパッとやることを、ぼくはあまり恐怖ではないんです。

当然のように語る北川さんの言葉は、どれも芯の強さを感じさせた

– 堀越
ちなみに北川さんにとっての、イベントの失敗って?
– 北川さん
集客もあるけど、お客さんも運営側もどちらにも負担はかけちゃダメだと思っています。毎年やっているからって理由だけの、キツイものはやめてもいいと思う。伝統行事や神事でなければ。運営側も楽しまないと、お客さんにも伝わらないし、そうでないと意味がないと思っています。
– 堀越
本業ではないことだし、そこに無理はしないということですね。
– 北川さん
そうです。イベントで食べているわけではないので。イベントは、本業や自分が生きていく上での、いいスパイス。やらないよりは、絶対にやった方がいいと思っています。言ってしまえば“遊び”をつくっているわけですから。
– 堀越
それが仕事とも結びつく?
– 北川さん
いや、商売につなげることは、考えないようにしています。考えたら、すぐお客さんや協力してくれる人たちに伝わってしまいますから。

最近完成した『湯上り文庫』ご近所の方々からの推薦本が並び、お風呂上がりに良い音楽と良い本で、最高の時間が過ごせる空間

– 堀越
これから、こんなイベントを嬉野でやってみたい!というのはありますか?
– 北川さん
『宵の美術館構想』ですね。
– 堀越
『宵の美術館』て、ぼくもほんの少しだけランタン制作をお手伝いさせていただいた『なまずの寝床』の?
– 北川さん
そうです。あれは、構想の一部分。将来的には、温泉街全体を夜の美術館『宵の美術館』にしたいと思っています。太陽が沈んだら、旅館はもちろん、空き家や公園、街全体に置かれたランタンや灯りのアート作品が現れ、街全体を美術館に。ラスベガスの日本芸術バージョンとでも言いましょうか、夜しか体感できない特別な街を作りたいんです。
– 堀越
それは、面白そう!
– 北川さん
今取り組んでいる『嬉野茶時』で、改めて嬉野には魅力的なコンテンツが揃っていると感じています。嬉野茶、吉田焼、温泉。当たり前にあったものを見つめ直して、見せ方を変える。それだけで、こんなにも輝くんだということを自分たちも気づきました。
– 堀越
『嬉野茶時』では、その異なるコンテンツが融合して、すごく魅力的なものになってますよね。異なるコンテンツを結びつけるなんて、よくできましたね?
– 北川さん
それは、有志でやったからだと思っています。偏っていたから良かったんです。市役所や観光局などが最初に入っていたらできなかったと思います。公益性を考えてしまったら、とんがることができなくなりますから。最初は、とんがりを大事にしたかったんです。
– 堀越
有志ということですが、入りたいという申し出があったら、入ることはできるの?
– 北川さん
はい。間口は広げています。でも、平等ではなく、企画を大切にすることは今も変えていません。

市民参加でランタンを作り上げて行われた『なまずの寝床』の様子(2017年2月撮影)

– 堀越
イベントや企画で、今までバラバラだった街の魅力をひとつにつなげるというのが本当に素晴らしい。
– 北川さん
『宵の美術館構想』も正にそうで、嬉野茶のお茶農家さんに協力してもらって夜の茶畑にランタンを展示したり、吉田焼や地元町工場の技術を使った明かりをつくったり。ひとつのことをみんなで取り組むことで、どちらも関心を持って他地域、他分野でつながり、広がっていく。
– 堀越
嬉野にある豊富なコンテンツがひとつになるのが『宵の美術館構想』だと。
– 北川さん
はい!『宵の美術館構想』は、大きな夢として持っています。
– 堀越
北川さんの話を聞いて、これからの嬉野がますます楽しみになりました。これからも、ご活躍を楽しみにしてますね!今日は、ありがとうございました。

北川さんにお聞きしたお話は、まさに温泉旅館街の魅力編集術でした。
気軽に意見を交わせる場として『チームUreshino』をつくり、『スリッパ卓球大会』という面白い企画を実践することで、周りに理解をしてもらう。
街の企画も旅館の企画も、考え方は同じ。自分が「楽しそう」「やりたい」と思ったことは、失敗を恐れずまずやってみちゃう!
『モミフェス』では、ライバルを並べることでお互いの入口を広げ、『嬉野茶時』では異なるコンテンツも、有志という前向きの力を融合することで、大きな推進力で周りを巻き込む流れを作る。
「自分がやりたいと思ったことは、やらないよりは、絶対にやった方がいい」という北川さんの強い信念が、みんなを巻きこむ面白い企画と、これからの嬉野をつくっていくんだろうなぁと、本当にワクワクしました。
みなさんも是非、大村屋旅館の空間はもちろん、これからの嬉野にご注目ください!

text & editing & photographs by 堀越一孝,illustrations by ほりこしみき

嬉野温泉 旅館 大村屋
〒843-0301
佐賀県嬉野市嬉野町大字下宿乙848
TEL:0954-43-1234

http://www.oomuraya.co.jp/

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