音楽の潮、満ちるとき ~てらおん~

音楽の潮、満ちるとき ~てらおん~

column 55

村岡 昌一

September 18, 2018

午後5時、佐賀市の中心商店街に隣接する願正寺の鐘の音が心地よく、やわらかに響く。

17時前、参加者が集まり始める。

毎月第4土曜日に、願正寺の本堂で行われる音楽イベント『てらおん』の開会を告げる音だ。
2006年9月から始まり、2018年6月16日(土)で114回目を迎えた。願正寺の住職・熊谷信隆さんの法話を交えながら、毎回、3組ほどが歌と演奏を披露する。
願正寺は1600年の創建で、本堂は1702年に建立された。美しいしだれ桜や、除夜の鐘をつくことができる寺として、広く親しまれている。
個人的には、幼い頃に本堂で見た大きな金色の装飾品が、ずっと心の中にある。

おきつななこさん。出演だけでなく、進行や会場づくりなども担当し『てらおん』を支える。

『てらおん』の運営に関わるメンバーのひとりで、この日も出演するベース・ボーカルユニット『ハートランド』のおきつななこさんは言う。
「元々は年に1回の音楽イベントでしたが、地域に根付くものにしようと、願正寺で毎月開催してきました」。

マンドリンの演奏が始まった。

30名くらいの参加者を前に、まず、マンドリンのグループが懐かしい映画音楽などを演奏する。小刻みに弦を震わせながら、きらびやかな音色を本堂に響かせる。
おきつさんの「本堂ではいい響きをするんです」という言葉を思い出す。

『ハートランド』。ベースギターとボーカルによる心地いいサウンドが印象的だ。

続いて、おきつさんがベースギターのJINさんと登場する。ベースギターのやわらかな演奏に乗せる透き通った歌声が心地いい。

「元々寺は地域のコミュニケーションの場」と熊谷住職は『てらおん』への協力について語った。

二組が登場した後、熊谷住職からの法話が始まった。この日は、同じ水でも立場が違えば異なった見え方をするという「一水四見(いっすいしけん)」という言葉を通して、
「良し悪しや優劣を自分の心で決めてしまうと、それが苦しみの原因になっていく。物事にはそれぞれ意味や価値があるものだと広く見ること大切」という話をされた。
心豊かに生きるための有難い話に、皆が聞き入る。

大きな金色の装飾品の下で歌い上げる。

最後は、キレのいいアコースティックギターの早弾きをする男性が、渋めの声でオリジナルの曲など数曲を歌い上げ、
黄昏時を迎えた午後7時30分過ぎに114回目の『てらおん』は終了した。

この日は0歳児からお年寄りまで幅広い年齢層の人たちが参加した。

なぜ『てらおん』は長く続いているのだろう。おきつさんは「住職からは『とにかく続けていきましょうね』と言われています(笑)」と言った後、「音楽を楽しみたい人が楽しめるように、力を抜いて自然体でやっています」と続けた。
その言葉を聞いて、「ふだんのくらしの中で、気軽に音楽に触れられること」が願いなのだと感じた。
空には鳥の、川には魚の姿があるように、街に音楽が息づくようにしたいのだ。「音楽が好き」という純粋な気持ちが、継続の大きな力になっている。

『てらおん』終了後。西の空には三日月と金星が輝く。

本堂を出ると、西の空に弧を描く月が輝いていた。この月が満月となり、欠けていき、再び満ちていく頃、次の『てらおん』を迎える。
『てらおん』は、月ごとに迎える音楽の満ち潮のような自然な流れの中にあった。
地域に開かれた本堂で重ねていくゆるやかな満ち引きは、人と人との縁を生み、街や人々に音楽をしっかりと届けている。

【DATA】
4月から11月までの年8回、第4土曜日の17時から、願正寺(佐賀市呉服元町)で開催

入場料500円

https://www.facebook.com/Teraon/

ページ上部へ