自然に囲まれた神野公園は 子供の心を育てる場所。

自然に囲まれた神野公園は 子供の心を育てる場所。

column 37

ナカムラ ミツル

August 21, 2018

この日、326(ナカムラミツル)さんと神野公園で落ち合うことになっていた。初めて訪れたその場所は、いわゆる公園のイメージとは随分違っていた。公園に近づくと、遊具の姿がはっきりと見えてきた。敷地内に遊園地があるのだ。いわゆる入園ゲートはなく、入園は無料。遊具の一部は有料だが、大半が100〜200円台で利用できる。実に気前が良いなと思った。

公園に入ると、子供たちの楽しそうな声が響いている

先に着いていた326さんが日陰にいた。片手にラムネの瓶を持ち、もう片方の手を大きく振っている。挨拶を済ませた後、「想像していたよりもずっと広いし、しかも無料なんですね」と感想を伝えると、326さんは「本当に今思うと贅沢な遊び場だったんですよね。公園の中には、今見えている遊園地のほかに、川や池、丘まであり、そうそう動物園まであるんですよ」と我が事のように嬉しそうに教えてくれた。
この日の最高気温は35度。そんな猛暑の平日の昼下がりだったが、ちらほらと子供たちが遊んでいる。遊具は昭和の空気を感じさせるような、味が出たものが多く、日差しをかわして眼を細めると、絞った瞳孔を抜けて遊具に反射した光が飛び込んできて、なんともいえないノスタルジックな気持ちになった。
「いいでしょ、この雰囲気。大人になった今でも、ふらりと散歩に来るんです。その度に大切な何かを思い出すんですよね」。326さんはそう言って、太陽の下を歩き出した。

「この遊具は昔からあったな〜」と、幼少期の記憶と重ねながら園内を楽しそうに案内してくれた326さん

初めて326さんが神野公園を訪れたのは幼稚園の頃。自宅から徒歩圏内だったことに加え、326さんの祖母が働いていた製菓工場の目の前が公園だったこともあり、自然とここで遊ぶようになった。
「じいちゃんは絵が上手くて、ほら、あのSLの線路上にあるトンネル、あそこの内側に、子供たちのために絵を描いていたんですよ。幼いながらに誇らしかったですね。その絵が見たくって、ばあちゃんに連れて行ってもらっていました」。
その絵は長い年月の間に消えてしまっているが、子供たちのために絵を描くという精神は、326さんへと受け継がれている。現在、神野公園のイラストを326さんが担当。公園のロゴ、キャッチフレーズ、そして自身をモチーフにしたキャラクター「ゆるくん」を描いている。ポスターには「ちいさかったボクは神野公園でおっきくなった そしておとなになった今 神野公園でこどもになる。」と書かれていた。その言葉は、326さんにとって何の飾りもない、ストレートな本心だ。

ポスターには、326さんの小さな頃と見守ってくれたおばあちゃんが描かれ、ここでの思い出がぎゅっとつまっている

「この前、公園に来た時、遊具で遊んでいる子供が『ばあちゃ¬ん見てる!?』と言って、5秒毎くらいに一緒に来ていたおばあちゃんに聞いている場面に出くわしたんです。こういった光景に出会うと、ふと、自分自身の記憶がつながるんですよね。『ああ、そういえば、自分もそうやっていたなあ』って。ふいに思い出すんです。自分自身にこの公園での思い出があるから、いろんなシーンで、そういうことが度々起こるんですよ。あるものを見ていると、その光景に昔の自分が重なり、思い-出が蘇ります。そして束の間、子供に返れるんです」

幼稚園児の326さんにとって、この公園は全てだった。「遊びに行くと言っても、自転車すらまともに乗れないわけですからね。他に行くという選択肢がありません。ばあちゃんとの思い出がたくさん詰まった最高の遊び場です」と326さんは頬を緩める。

いつも、ばあちゃんが座っていた場所で一休み

遊園地エリアを抜けると、その先に池があり、脇を川が流れていた。ここでも、池や川を目にしたことで、326さんの記憶が引っ張り出された。「そうそう、公園でも遊んだんですが、その途中にあったこの川に飛び込んでいましたね。途中の至るところで遊びながら、公園に向かっていたんですよ。それはもう、ずっと遊び続けていたように思いますね」

小学校に通うようになると、それまでとは打って変わって行動範囲が広がり、この池や川も326さんにとってお気に入りの遊び場になる。

「そうだ、池には雷魚、ブラックバス、小魚も泳いでいましたね。川では網を張って、魚を捕っていましたよ。記憶していたよりも川がきれいで驚きました。きちんと清掃されているんでしょうね。そういえば、ザリガニも捕ったなあ。みんなで飛び込んで。でもよく見ると、結構流れが早いですね。今、こうやって見ると、結構危なかったんだなあ」

「ほら!いっぱいいる!」と、川に夢中になる程、たくさんの生き物が今もここに住んでいる

小高い丘のほうへ移動すると、威勢の良い蝉の鳴き声が、より大きく感じられた。この辺りではクワガタムシも捕まえていたそうだ。

「遊園地だけでなく、こうやって時間をかけて公園をぐるりと回るのは数年ぶりですよ。やっぱり良いですよね。あの頃は遊具で遊ぶのが楽しかったんですが、今だと、池と川の方がテンション上がりますねえ。年を取ると、同じ場所に行っても感じることが変わってくるんですね」

この日の暑さを忘れるくらい、緑と景観の美しい園内で、326さんも本当に楽しそうだった

326さんに連れられて園内を巡っているうちに、今、自分がどこにいるのかを忘れそうになった。ここは佐賀市内、それもど真ん中なのに、場所によっては周囲に建つビルなどが全く見えず、見渡す限りの自然に包まれた。

「この公園は、子供の心を育てる場所だと思うんです」

心置きなく遊べる自然、そして遊園地が歩いていける距離にある。子供の頃にはその贅沢な環境に気が付かなくとも、その時、その場所で感じた体験は、豊かな感性を育んでいく。

公園から帰ろうとした際、326さんはまた一つ、記憶をたぐり寄せた。

「そうそう、家に帰るときの合図があったんです。それが、夕方に漂ってくるお菓子の工場からの甘い香りでした」

思わず深呼吸して、その香りを引き寄せようとした自分がいた。

 

text by 山田祐一郎, editing & photographs by 堀越一孝

DATA
神野公園 こども遊園地
住所 佐賀県佐賀市神園4-1-3
電話 0952-30-8461
開園時間 9:30〜17:00
定休日 火曜(祝日の場合は翌日)

http://haut.jp/kouno/

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