有明海・太良で牡蠣養殖。海が伝えるメッセージ

有明海・太良で牡蠣養殖。海が伝えるメッセージ

column 56

食ごこち

October 04, 2018

佐賀市内を出発し、佐賀県の最南端、太良町へと向かった。
多良岳の裾野のみかん畑と有明海の調和した風景に非日常感を覚えながら、漁師の家が建ち並ぶ海沿いの町に到着。独自の牡蠣養殖に取り組む「海男」代表の梅津聡さんを訪ねた。

日焼けした明るい笑顔の梅津さんに挨拶したのもつかの間、数分後には漁船に乗り、あっという間に大海原へ。沖の大きないかだ群の中の一つに船を着けた梅津さんは、若手の研修生とともに不安定そうに見える竹の「通路」の上を器用に歩いていった。

着くなり「とりあえず現場を見てください」と、船に乗せてくれた梅津さん

「このいかだの様式自体は垂下式養殖法といって、日本では一般的な方法です。沖縄出身の宮城新昌さんという方が開発しました」
と説明する梅津さんは、もともと港湾工事会社を営む父の後継ぎとして本業のかたわら、2010年より牡蠣養殖を独学で学び、自ら養殖業を行うようになった異色の経歴の持ち主だ。佐賀県だけでなく、山口、長崎、沖縄の11の海域でさまざまな実験を重ね、研究の末、新しい技術を使って高品質の牡蠣作りに取り組んでいる。

垂下式養殖を行なっているいかだ

牡蠣の多くは、稚貝がついた貝殻が縄に通され、海中で吊り下げ育てられる。長い時間をかけゴツゴツした大きな牡蠣に成長させるという従来のやり方ではなく、小さな牡蠣をバスケットに入れ、我が子のように丁寧に育てるのが梅津流。こうすることで、波のゆりかごで牡蠣が開閉し旨味のある牡蠣ができるのだそうだ。

梅津さんが扱う牡蠣は商品名を持つ。真牡蠣の「ふわふわ」「有明」「オトフセ」「さくら」などに加え、スミノエ牡蠣という珍しい品種の有明セッカほか全約15種類。小ぶりでも味や形や食感にそれぞれ特徴がある。これらは牡蠣の大きさが重視される一般市場には出回らず、全国のオイスターバーなどの飲食店などへの卸、インターネットなどで販売される。

実際に使っているバスケットを使いながら、我が子のことを話すように丁寧に説明をしてくださる梅津さん

ブランド力を高めた牡蠣づくりを進める梅津さんには、この有明海から日本の漁業を変えていきたいという目標がある。
「太良という土地に生まれ、昔、この辺りは完全な漁師町でしたね。タイラギが有名で、昼過ぎになるとせりが始まっていました。今は操業しているのは80人ほど。漁業が盛んとは言えないのが現状」という梅津さん。港湾工事という仕事の中で海洋調査にも携わってきたからこそ、その変化に敏感に反応し漁業のあり方自体を見つめ直したのだろう。
生物多様性の面から重要度が高いとされ、多くの研究者や機関も再生を目指す有明海。梅津さんは「ここで必要なのは何億円もかけた大きな事業ではなく、小さな生き物が棲める、食物連鎖ができる環境を作っていくこと」と話す。

有明海には大きな可能性があり、牡蠣はその大切な一端を担っているという

「牡蠣は生態系の健全化に役立つ。安全でおいしい牡蠣を多くの漁業者が作れれば、海の生き物も漁師たちも元気になる」と、梅津さんは各海の特性を生かした養殖法を考案。沖縄水産高校やさまざまな研究機関などともプロジェクトを立ち上げ、事業連携を行っている。国内外からの研修生も梅津さんの提唱する牡蠣作りを持ち帰るべく学んでいるのだそうだ。

そして、牡蠣を語る上で欠かせないのが「ノロウイルス」。梅津さんの牡蠣作りは生産から収穫を経て出荷するまでのあらゆる過程で徹底して安全対策を行う。客先への扱い方の説明をするほか、商品には検査報告書を同封する。
「食べてもらう人、買ってもらう人、宣伝してもらう人、全てお客さま。卸したお客さまが最終消費者に売ることを考えるとものすごい数になります。牡蠣で水産業を救うとか言ったくせに、食中毒を起こすわけにはいかない、と言うことで徹底せざるを得なくなりました」。

お客さんに気持ちよく食べてもらうため、オリジナルのナイフもデザインした

牡蠣の養殖には未来があると考え、これまでの養殖法や日本の漁業に一石どころかいくつもの石を投じる梅津さん。時には官僚にも直談判を行い、さまざまな課題解決を実行するまさに「行動派」の人だ。

太良の地でもさまざまなネットワークを駆使し、束になっての発信力を発揮。賛同者・協力者を増やしながら、水産業の垣根を超えた取り組みを行っている。一つひとつの課題をクリアにし、大きな夢に一歩ずつ前進する梅津さんに揺るぎない信念を感じる。

text by 高橋香歩, editing & photographs by 堀越一孝

株式会社 海男
〒849-1613
佐賀県藤津郡太良町大字大浦丙977-1
TEL:0954-68-3415

http://www.umiotoko.com/

ページ上部へ