やっぱり帰ってきたくなる一杯 〜中央軒のかしわうどん〜

やっぱり帰ってきたくなる一杯 〜中央軒のかしわうどん〜

column 62

村岡 昌一

January 23, 2019

佐賀県の東部、JR鹿児島本線に長崎本線が合流する鳥栖駅は、明治時代の駅舎が今も使用され、列車の音、軋むレールの金属音が静かに響く“旅情”を感じさせる駅だ。大きな駅だが、ゆっくりとした時間が流れる。

この駅のホームに、1956年以来長く愛されている立ち食いうどんの店『中央軒』がある。「かしわめし」などの駅弁を手がける株式会社中央軒が運営し、鳥栖駅には、ホームの3店舗(3・4番ホームの店は現在休止中)と改札横の店の全部で4店舗を構える。

師走の風が冷たい日曜日の午後、下り列車が発着する5・6番ホームの店を訪ねた。近づくと、風味豊かなだしの匂いが漂っている。寒さで固くなっていた身体が、ふっと緩む。

(株)中央軒の中村博孝さん。この仕事に関わって25年。

この日勤務されていた中村博孝さんに話を伺った。「新鳥栖駅の売店も含めると、一日で300杯位、サガン鳥栖の試合の時とかは500杯を超える日もありますよ」。5・6番ホームの店は、そのうちの3~4割を売り上げるそうだ。

湯切りしたうどんを丼に移す。

熱々のだしを注ぐ。

あっと言う間にうどんが出てくる。

かしわうどんを注文した。中村さんは、お湯にくぐらせたうどんの麺を湯切りして丼に移し、かしわ(鶏肉)、ねぎを盛り付け、熱々のだしを注ぎ、さっと差し出す。この間、30秒足らず。「列車に乗らんばけんですね、1分以内には出すようにしています。中には『電車の来よるけん作って!』と注文される方もおられます」と笑顔で話す。

かしわうどんは一杯350円。全てのうどんにかしわが入る。

丼からは湯気とともに、旨味を伴っただしの匂いが立ち上がる。いりこ、昆布、カツオ、椎茸、しょうゆ、みりんで作られているだしは、全てが調和した優しい味がする。
「だしを一定にしとかんと、味が変わるけんですね」と中村さん。だしの様子には細心の注意を払う。麺は讃岐うどんの対極にあるような柔らかさで、するすると食べられる。そして、甘辛く炊かれたかしわが、だしの風味をさらに豊かにし、うどんをさらに美味しく仕上げる。

左の女性は初めてのかしわうどんをを味わった。

仕事を終えてやって来た女性二人は、かしわうどんを注文した。日が傾き寒さが増す中、うどんの温かさと美味しさにふぅーっと一息つき、「ごちそうさまでした!」と言って賑やかに店を後にした。

寒い中、うどんの温かさと美味しさは格別だ。

ごぼう天うどんで至福のひとときを過ごす。

電車を途中下車してやって来た男性は、「ここのごぼう天うどんが好きなので」と言いながら、幸せそうな表情を浮かべてうどんをすすった。

「久しぶりに食べたくなってね」と、佐賀に帰る途中に立ち寄った男性もいた。

シニア世代の夫婦は「ここのかしわは、他の店とは違うけんね」と、この日の夕食に持ち帰り用のかしわうどんを注文した。

平日の夕方は、部活を終えお腹をすかせた高校生が来ることも多いのだそうだ。「ここでうどんを食べていた高校生とかが、帰省の際に来てくれることもあります」と中村さんは言う。

「忙しいのが一番だけど、『美味しかった』『また来ます』と言ってもらえると嬉しかですね」と中村さん。

世の中には様々なうどんが数多あるが、やっぱりここに帰ってきたくなる。そんな人たちに数多く出会った。中央軒のかしわうどんは、消えることのない美味しさの記憶を残す、特別な一杯だ。

DATA
株式会社 中央軒
電話   0942-82-3166(鳥栖駅前本社)
営業時間 鳥栖駅改札口横(07:00~19:00)
     1・2ホーム(11:00~18:30)  
     3・4ホーム(11:00~18:00)※現在休止中 
     5・6ホーム(07:00~21:00)
     新鳥栖駅在来線改札横(07:00~18:30)
定休日  年中無休

http://www.tosucci.or.jp/kigyou/chuohken/index.html

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