心も、空気もやさしくなる素朴な人形たち ~尾崎人形~

心も、空気もやさしくなる素朴な人形たち ~尾崎人形~

column 66

村岡 昌一

March 08, 2019

佐賀市中心部から北東方向に車を走らせる。20分ほどすると脊振(せふり)の山々を望み、周囲に田畑が広がる静かな集落、神埼市神埼町尾崎地区に到着する。ここでは、弘安4年(1281年)の元寇(蒙古襲来)の際、捕虜となってこの地区にやってきた蒙古人が、故郷を思って作り始めたとされる尾崎(おさき)人形が作り続けられている。

尾崎地区に着くと、この看板が道案内をしてくれる。

尾崎人形は、鳩笛や水鳥など素朴で温かみのある民芸品として知られ、40種類程の全てを尾崎人形保存会の髙栁政廣さんが手がけている。

工房を訪ねたのは1月下旬。髙栁さんは「こがん朝早くからすみませんねぇ」と言いながら、自宅敷地にある工房の鍵を開けてくれた。

この作業台で粘土が形づくられていく。

六畳間二つ程の工房に入ると、ひんやりとした空気、かすかな土のにおいを感じる。
作業台の上では、粘土を成形するための白い型、明るい茶色をした粘土が冬の穏やかな光を静かに浴びている。

尾崎人形に柔らかで愛らしい表情を描き出す絵筆たち。

何十本もある絵筆を見つめていると、「使いよる筆は少しですけど、机にたくさん乗せとかんと寂しかけんですね」と髙栁さんは笑顔を見せながら言った。

尾崎人形の製作者・髙栁政廣さん。

以前は地区の別の方が尾崎人形を製作していたが、父親が火鉢などの焼き物を作っていたこともあり髙栁さんが手伝うようになった。

尾崎人形を製作していた方が亡くなり、この先どうするのかという話になった。「継いでくれんねって言われたときは随分迷ったとですよ。あんまり儲からんし、ですね(笑)」。

「伝統ば絶やすとね」という声もあったそうだ。5ヶ月ほど迷いに迷って、2009年から髙栁さんは尾崎人形作りをはじめた。

2019年の干支・亥の尾崎人形。

最初は試行錯誤が続いたそうだ。のごみ人形(鹿島市)など県内の土人形を取り寄せ、製作の参考にもしたという。伝統を守りながらも、新しいことも始めようと、新たに干支の人形を作り始めた。2011年の卯年から始まり、2022年の寅年に12種類が揃う。

タイエビス。手作りのため、表情とかが微妙に異なるのも尾崎人形の魅力。

毎年6月、地元の神埼市立西郷小学校では、髙栁さんの指導の下、4年生が粘土での成形と絵付けで尾崎人形作りを体験する。髙栁さんは言う。「子どもたちが喜んでいるのを見ると、尾崎人形をやっててよかったなぁって思います」。

髙栁さんや尾崎人形を取り巻く状況は変わりつつある。「作者に会いたい」と、東京など遠方の人が髙栁さんを訪ねて来るようになった。外国の方も工房を訪れる。声がかかり、東京や大阪での催しにも参加する。昨年はオランダにも行ったのだそうだ。

髙栁さんはオランダで撮った写真を嬉しそうに見せてくれた。

企業も注目している。「今年の正月用にカチガラスば納めたとです」。無印良品では、正月に手づくりの縁起物などを詰めた『福缶』を販売しており、その縁起物として2016年の雀に続き、再び尾崎人形が選ばれた。

2019年の『福缶』にオーダーがあったカチガラス。

「認めてもらったていう感じがして、やっぱり嬉しかですね」と髙栁さんは目を細める。

尾崎人形の素朴さと温かさは、見る人をやさしい気持ちにし、場の空気を柔らかいものに変える。それは、穏やかで飾らない髙栁さんの手によるものだからなのだろう。尾崎人形は、髙栁さんの人柄で作り描かれ、その人柄を感じずにはいられない、どこか懐かしくて、愛おしい不思議な魅力を湛えている。

あるデザイナーの方が「長太郎」という人形に絵付けをした。髙栁さんの人柄まで見事に描き出した。

【DATA】
高栁政廣(尾崎人形保存会)
電話:0952-53-0091

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